トッコ演劇工房「3日でつくるインプロワークショップ」ふりかえり

こんにちは。もっちーです。

僕たちは5月3日(火・祝)~5月5日(木・祝)の3日間、栃木県栃木市へ行ってきました。そこで県内の高校生を対象に、インプロワークショップおよび成果発表公演(ショーケース)を行いました。これはトッコ演劇工房の主催企画「3日でつくる演劇ワークショップ」の一環として行われたもので、僕たちSAL-MANEは隔年で講師を担当しています(前回のワークショップのふりかえりはこちらからご覧いただけます)。
 
今回も初日、2日目にワークショップを行い、最終日となる3日目にショーケースを行いました。ショーケースには2年前のワークショップに参加した高校生たちが応援に駆けつけてくれました。久しぶりの再会がとても嬉しかったです。すべてが初めてのことばかりだった前回と比べて、今回はいろいろなところに変化がありました。いくつかの変化に着目しながら、今回のワークショップをふりかえりたいと思います。

すべては2年前のワークショップの反省から

2年前のインプロワークショップは、僕たちにとって忘れることのできない、大きな出来事でした。参加した高校生たちがワークショップやショーケースで見せてくれた姿に勇気づけられた一方、自分たちのワークショップの進め方ひいてはインプロ観については大きな〈揺らぎ〉がありました。
今回のインプロワークショップに先立ち、前回のふりかえり記事を改めて読み返しました。その記事の冒頭にこのような見出しがあります。「コミュニケーションゲームからインプロゲームの難しさ」。これは言葉の通り、僕たちがワークショップ中に直面した課題でした。
当時の僕たちは、最終日のショーに向けて、高校生たちのパフォーマンスをより自由にすることを目的として、インプロのゲームを紹介してゆきました。「さしすせそ禁止ゲーム」「私は木です」「魔法の箱」「ワンボイス」「ワンワード」…どれもインプロワークショップではよく用いられる定番のゲームとも言えます。僕たちはこれらのゲームを通じて、インプロの考え方を体感して、それらを学んでいってほしいと考えていました。そのことが、彼ら彼女らを自由にインプロさせるための近道であると思っていたからです。
 
しかし、実際のワークショップで起こったことはこうでした。アイスブレイクのためのコミュニケーションゲームは、高校生らしい盛り上がりが見られました。「そろそろ温まった頃合いだろう」というところでインプロゲームを紹介しました。ところが、先ほどまでの熱量はすっかりなくなってしまい、非常に難しそうに取り組む彼らの姿がありました。
当時の僕たちは「まだ解し切れていなかったか?」「ゲームが難しいものだったか?」などと思案しましたが、なかなか突破口が見出せずにいました。その時の状態がまさに「コミュニケーションゲームからインプロゲームの難しさ」という見出しに表れています。
徐々に次の一手が見えなくなってゆくなかで、「ステータス」を行った時のことです。これまで難しそうに、どこか恐る恐るゲームをしていた彼ら彼女らの様子が一変しました。まるで水を得た魚のように、舞台を創造性で満たしてゆきました。当時の僕たちはその光景を目にして、「普段から部活動で演劇に触れている彼らにとっては、こういったワークのほうが楽しいのだろう」「楽しいからこそ、よいシーンが生まれるのだ」という気づきを得て帰りました。
以上が前回のワークショップのふりかえりの内容です。ワークショップを終えた後は、ここで得られた気づきを元に新しい探究を始めました。

あれから2年の月日が経ちました。読み終えたばかりの記事は、当時の想いをいろいろと蘇らせてくれました。一方で、「今だったらこういうまとめかたにはならないだろうな」と思う自分もいます。なぜなら当時の僕たちのつまづきは、コミュニケーションゲームとインプロゲームの違いに端を発したものというよりは、「どうすれば「インプロを教えた」ことになるのか?」というより大きな問題に関わっているからです。
そこで改めて現在の僕たちの考えを整理してみたいと思います。結果として、それがそのまま今回のワークショップのテーマとなりました。
 
 
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インプロすることを恐れない

「どうすれば「インプロを教えた」ことになるのか?」
2年前のワークショップを終えてから、絶えず考えてきました。その中で僕たちが実感として掴みつつあることは、僕たちはインプロすることを恐れていたのかも知れないということです。
思い返せば、2年前の僕たちはコミュニケーションゲームやインプロゲームを通じて、自由なフリーシーンが生まれると考えていました。あらかじめ持っている緊張や不安、恐れを取り除かない限りは、自由になれない。したがってインプロゲームを通じて、インプロの考え方を伝えたうえでないとインプロはできない(あるいはさせられない)。そのように明言していたわけではないですが、そういう考えがどこかにあったからこそ、ワークショップをあのように組み立てていたのでしょう。
観方を変えると、当時の僕たちはフリーシーンはそれぐらい怖いものであると捉えていたことになります。そういう怖いものに飛び込むための準備を、周到にしていたと言えるでしょう。

では、今はどうでしょう。率直に言うと、今はフリーシーンが最も楽しいです。自分のやりたいことを思い切りやれる状況に勝るものはありません。そこでは、これまで大切にしてきたインプロの考え方も「」の中に入れています。インプロとして正しいかどうかよりも、どうすればおもしろいシーンになるかということが重要です。そのような状況の中に身を置くと、どのようなことが起きたとしても不思議と前向きな気持ちでいられます。
このようなことを考えているので、先ほどの「どうすれば「インプロを教えた」ことになるのか?」という問いに対しては、「インプロそのものをやる」、具体的には「フリーシーンをやる」ということを措いて他にないなと思っています。

僕たちの仕事はインプロをやりやすくすること

これと関連して、もうひとつ、今回のワークショップの中で大切にしていた考えがあります。それは「参加者のインプロをやりやすくすること」です。
インプロのように何も決まっていないものに飛び込むことは自信や勇気がいることです。特にインプロを初めて経験する人たちにとっては、そこを支えてあげることはとても重要です。しかし、だからといって、彼ら彼女らが何もできない人たちであるというわけではありません。分からないなりに、自信がないなりに、彼ら彼女らはアイデアを持っているし、それを表現しようと試みます。2年前の僕たちは、この後者の考えが不十分でした。「初めてだから支えてあげないといけない!」という行き過ぎた親切さが、却って彼ら彼女らの仕事をやりづらくさせてしまったかもしれないと反省しています。
最近の僕はよく、海に例えながらインプロについて話すことがよくあります。それに倣って言うとすれば、僕たちの仕事は、彼ら彼女らが溺れないように海岸を舗装して海水浴場を作ることではありません。そこではやがて海水浴場を泳ぐべきだという「正しさ」が生まれてしまいます。そうではなく、僕たちの仕事は、彼ら彼女らをどこまでも広がる海原へ導くこと、そしてその海原を安全に泳がせることです。どうすれば遥か沖合まで、楽に泳いでゆけるかを手助けすることです。このような立場に立つと、彼ら彼女らがどこへどのように進みたいかはすべて委ねてしまうことができます。
僕たちは「そっちに行きたいのならこうしてみるといいよ」と、彼らの仕事をやりやすくすることに徹しよう。今回のワークショップを進めてゆくなかで、僕たちは何度も何度も繰り返し、このことを共有しました。
 
 
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名前を付ける

このような考えに基づいて、僕たちは3日間のワークショップを進めてゆきました。その結果、これまでで一番と言ってよいほど、シンプルでしなやかなワークショップとなりました。
僕たちが具体的に提案したものは「名前を付ける」というワークです。1人のプレーヤーがいるところに、別のもう1人のプレーヤーが入ってきます。そこでプレーヤー同士、架空の名前を付けあうことができればOKという決まりです。そこが公園のベンチであるという他に、与えた設定はありません。ほとんどフリーシーンと言ってもよいでしょう。今回のワークショップは、とにかくこのワークを字反復して行いました。そこで生まれた気づきを膨らませ、新たに練りこみながら、繰り返しくりかえしこのワークを行いました。
 
これは僕が、サンフランシスコのベイエリア・シアター・スポーツ(通称「BATS」)のインプロワークショップで受けたワークから着想を得たものです。そのワークショップの講師だったケン・ロバートソンは「即興のシーンを作るうえで、互いの名前を付けあうことはとても大切だ。そしてこれは練習が必要なことだ」と話していました。
僕は実際にその話を高校生たちに伝えて、「即興で名前を付けるということは、とてもチャレンジングなこと。だから名前さえ付けられれば大丈夫だよ」と話しました。
 
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すると、どうでしょう。名前を付け合えればよいだけのワークが、続きが観たくなってしまうような興味深いシーンを、次々と生み出してゆきました。彼ら彼女らは与えられた決まりの中で、「もっとおもしろくしたい!」「どうすればもっとおもしろくなるだろう」と考え、自分なりの挑戦を続けてゆきました。
「名前を付ける」というワークは、シーンのはじめによく起こりがちな「誰?」「知らない」などのブロッキング(相手のアイデアを受け入れないこと)を未然に防ぎ、プレーヤー同士が関わり合う状況を作り出すことを手助けしました。それさえできてしまえば、高校生たちはアイデアの宝庫です。ディレクションをする僕たちのほうが、「その手があったか!」と驚かされる発見がたくさんありました。
そこで見つかったものは「初心者らしくておもしろい」というよりはむしろ、「インプロの可能性を広げるものとしておもしろい」というものばかりでした。2日目のワークショップを終えた時点で、「明日のショーケースはもう大丈夫だろうな」と思えるほどでした。
 


 
ちなみにこのワークは2日目の夜に行ったオトナ向けのワークショップでも紹介しました。こちらもお互いに名付けることを足掛かりにして、とても興味深いシーンが次々と生まれました。

インプロの大海原へ

そして迎えた3日目、最終日のショーケース。この日を迎えるにあたって、僕はまた海の比喩を出しながら、こう話しました。
 
「ショーは、誰も見たことのないような最も遠いところ、最も深いところまで泳いでゆくことのできる可能性のある場所だと思います」
 
海は地球上の約7割を占めます。そこは「人が実際に見た事があるのは、海全体の何%になるのか」(五十嵐大介「海獣の子供」)というほどに途方もなく広大です。僕はインプロというパフォーマンスもそれと同じようなものだと考えています。僕たちが今、知っていると思っているインプロはごくごくわずかに過ぎず、もっと多くの未知と発見がそこには眠っています。海を泳いでいると、ワクワクする気持ちと同時に、どこまでゆくのだろうと不安な気持ちになるのと同じように、インプロの世界は広がっているのではないでしょうか。
その世界を探究するために僕たちは、まずひたすら海に飛び込まなければいけません。そして、行ったことのないところを一生懸命に目指します。でも僕たちの力には限りがあるので、もっと大きな力に身を委ねなければ到底行かれないところがあります。その大きな力のひとつが、お客さんからもらうエネルギーです。僕たちがステージに立つのはそこでなければ探しに行かれない場所を目指しているからだと言うこともできるかもしれません。
大体このようなことを話しました。この話が、彼ら彼女らの好奇心をくすぐったり、不安をいくらか和らげたかというと、僕には分かりません。ただ手前味噌ながら、なんとなく僕たちが目指したいものの質感を伝えることはできたかなと思います。
 
そして本番を迎えました。本番もワークショップと同様、「名前を付ける」ワークで構成しました。途中「ステータス」を挟みましたが、それ以外のすべてがワークを基にしたフリーシーンでした。それだけチャレンジングな内容だったはずなのに、気が付くとディレクションらしいディレクションをほとんど入れずに、ショーを楽しんでいる僕たちがいました。僕たちが唯一したことと言えば、全員が同じぐらいの回数を出れられるように指名をしただけです。あとはほとんど手放し運転のようでした。
当初「60分が限界だろう」と判断してもともとの計画よりも30分早く切り上げるつもりでしたが、終わってみるとほぼ90分のショーが上演されました。ショーの中で進化してゆく高校生たちの姿は、もうすっかりインプロバイザーです。なにからなにまで僕たちの予想をはるかに上回くという、本当に貴重な経験をすることができました。「なんだかすごいものを観てしまったなあ」と、心からそう思いました。
 
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僕らが旅に出る理由

この3日間を通して、その日のふりかえりを付箋に書き残してゆきました。ショーを終えたこの日は、「自分のパートナーに向けて」(事前にペアを決めておいて、活動後にお互いにフィードバックをするというもの)、「ショーケースはどうだった?」、「3日間をふりかえって」という3つの観点から、ふりかえりを行いました。
そこに書かれている感想を見ていて気付いたことがありました。これまで行ってきたインプロワークショップでは「インプロの考え方が分かった」「台本演劇にも生かせそうな考えを理解することができた」という感想が多くありました。それ自体は決して悪いことではありませんが、今回のワークショップの後に寄せられた感想はそれらとやや違った印象を受けました。
ここにそのいくつかを匿名で紹介したいと思います。

良いGWでした😊たくさんのワクワクを手に入れられてよかった😌✨

今日は観客として、トッコさんのワークショップの成果発表会を見てきました。とっても面白かった。彼、彼女らの1人1人の個性が出ててとてもいい発表だったと思う。キラキラしてた。

正直に言いますと、最近演劇から逃げていました。というのも新入生歓迎会でいろいろとミスってしまって言われていたんですよ。そのショックで他の部活にすがっていたんです。だがしかし、今回のワークショップをきっかけに、演劇の楽しさを改めて知ることができました。今ではむしろ演劇部で活動がしたいくらいです。

初めは本当に演劇素人で自信がなくて、3日間ちゃんとやっていけるだろうか?と心配だったけど、楽しくやりきれて、とても良かったです! ここで学んだ“失敗を恐れないこと”“チャレンジすること”などを、部の活動でもちゃんと生かしていきたいです。
早速明日のオーディション頑張ります!!← 皆と“海”を楽しく“泳げて”良かったです!!

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「3日長いな….」「インプロ苦手だな…」って思ってたけど、あっという間でとても楽しい3日間でした。
想像していたワークショップとは違く、あたたかくて、安心出来る場所でした。参加している方々も皆いい人で、面白くて、個性があって、一緒に演劇ができて嬉しかったです。今日は初日にあった不安や緊張はほとんどなく、本番のショーでものびのびとやることが出来ました。
3日間お世話になった方々には、感謝しかありません。本当にありがとうございました。この3日を通して、技術面だけでなく、精神面でも成長することが出来た気がします。インプロ好きになりました。このメンバーも大好きです。このメンバーでまた演劇したいです。3日間本当にありがとうございました!

3日間という短い間でしたが、自分の可能性を知れたステキなものになりました!!もっとワクワクに飛び込んで泳いで行けたらいいなと思います🏊 GW本当に楽しかったです、ありがとうございました♪

帰りの車内で「The Long Goodbye」を聴きながら。みんなにはまた会おうと思えば会えるのだけど、このワークショップは、今、ここ、このメンバーだから生まれたもの。それが終わっても、形にならない感触のようなものが、いつまでも、少しでも、みんなの中に残ってくれたら嬉しいです。

3日間お疲れ様でした
海を魅せて下さった皆様に本当に感謝しています .
有難うございました ,

自分の可能性を信じて、もっと大きなワクワクを求めてゆくこと。
こうして感想を眺めていると、僕たちがインプロをする理由はまさにここにあるのだろうな思います。「正しいインプロ」を伝えることよりも、もっと大きな仕事が目の前に広がっていることを強く感じました。

こんな世界があることを僕たちに教えてくれた17名の高校生インプロバイザーたちに心からの感謝しています。
この広い海のどこかでまた彼ら彼女らと再会できることを楽しみにしています。また会いましょう。

追記
今回もこのようなすばらしい機会を僕たちに与えてくれて、そして最後まで献身的にサポートしてくださったトッコ演劇工房の高梨辰也さん、DE:RESインプロ研究室の立石奈々さん、西村典子さんをはじめ、関わってくださったすべての方々に深く御礼申し上げます。

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2016年5月7日(土)
木村大望/ Mochi